兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が直面する圧倒的な真実とは――。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。
(引用:新潮文庫 / 伊坂幸太郎 / 重力ピエロ / 背表紙)
今回は、伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』についての
ネタバレ・感想レビューになります。
主な登場人物
泉水(いずみ):主人公の一人。「ジーン・コーポレーション」という遺伝子に関することを取り扱う企業に勤めており、会社が放火に遭ったのをきっかけに、連続放火事件の犯人を追う。
春(はる):語り手である泉水の弟。兄とは違い、絵が上手く、しかも運動神経も良い。落書き(グラフィティアート)を消す仕事をしている。
父:泉水と春の父親。癌を患っており、闘病中。
母:泉水と春の母親。ある出来事が原因で数年前に亡くなっている。春に似て、容姿端麗
葛城(かつらぎ):「ジーン・コーポレーション」に遺伝子検査を依頼した男性。売春斡旋で生計を立てている。
あらすじ
物語の舞台は仙台、連続放火事件が発生していた。
そしてその事件現場の近くには何か暗示めいたグラフィティアートが描かれていた。
春が泉水と父に事件のあらましを伝えると、泉水と父は事件の謎解きをはじめ、次第に犯人へと繋がる情報に近づいていく。
遺伝子に関することを取り扱う企業に勤めている泉水は、起こっている放火事件がグラフィティアートと遺伝子に関係があることに気づき始め、
泉水と春、父の3人はそれぞれの道を辿って1つの結論に辿り着く。
果たして連続放火事件の犯人とその動機、狂気に隠された物語の真相とは…
ネタバレ
ここから先はネタバレを含みます。重力ピエロを未読、これから読破する方はご注意ください。
本当に大丈夫ですか??
それでは、、
連続放火の犯人は「春」であり、グラフィティアートも彼の仕業でした。
実は、「春」は葛城によって犯された母が身ごもった子供であり、
父と泉水とは遺伝子的なつながりはないのでした。
その情報を知った春は葛城への警告としてかつての事件現場で放火を起こし反省のチャンスを与えました。
放火現場はかつて、葛城が連続婦女暴行事件を起こした現場で、当時、少年だった葛城は刑務所を出所後に名前を変え、
土地を転々とした後に春と泉水が住む仙台に越していたのです。
しかし、葛城は開き直り悪びれる様子も無し。
ついに最後の放火を終えた後に葛城と対峙し、しまいには葛城を殺害するのでした。
さらに実は、泉水もまた弟と同じく葛城と春とのつながりを知り、密かに殺害を計画していたのです。
感想
伊坂ワールド全開の本書。
重々しい題材に似つかわしくないほど泉水と春やその父とのやりとりが絶妙であり軽快であり、
彼らがいかに仲の良い家族であるかを物語っている。
本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ
春
『重力ピエロ』を体現しているかのような言葉であり、
重いだけでなく、読んでいる私たちにちょうどいい緩和が感じられる名言になっている。
またラストで春に対し、俺に似て嘘が下手というシーンは、
親子とは遺伝子でなるものではないという、春を長年苦しめていた呪縛を解き放つ言葉になっていて、涙が止まりませんでした。
最後に
『重力ピエロ』は、映画化もしています。
泉水が大学院生になっていたり多少の改変はありますが、
ぜひ、原作読破後にはご覧になるのはいかがでしょうか。
岡田将生さん演じる春は私が当時読んでいたイメージにピッタリ 素晴らしい作品でした。
長々となりましたが少しでも『重力ピエロ』の魅力が伝わっていれば幸いです。